ゾウは,しばしば病気になるか? ゾウは,非常に素晴らしい体格の持ち主で,基本的には,たくましい動物である.もち ろん,これは,なんらストレスに曝されず,十分な栄養で飼育され,十分に世話をされた 動物園のゾウの場合である. どこで,ゾウは負傷するか? それにもかかわらず,軽度あるいは重度の負傷が起こる.そして,ゾウの調教師は負傷を治療する. ゾウの皮膚は非常に傷つきやすく,創傷は非常にゆっくり治癒する.そういうわけで,ゾウの調教師は,ゾウの日々の洗浄の間,注意深く,表皮の小さな負傷を探さなければならない.創傷は,徹底的に消毒し,治療用軟膏で治療しなければならない.そうしなけれ ば,軽度の創傷が膿瘍 に進行するかなりの危険性がある. どのようにして,創傷を治療するか? 膿瘍と創傷の治療には,清潔な水,カモミール抽出物(エキス)とヨード剤(イソ *4 ジン液)を主として使う.また,異なる創傷消毒薬を使うことがある.膿瘍と創傷の治療は,非常に長い期間を要する.そして,それらの損傷は,ほとんどの 場合,皮膚に瘢痕を残す. このような皮膚の瘢痕化は,調教師が,あまりに鋭利で,あまりに尖った手鉤を使って 軽率に,あるいは故意に 「ゾウを導いた (ゾウに手鉤を引っかけて,連れて行こうとした) ゾウに見られる.このような瘢痕の大部分は,耳の後ろ,鼻の一番上,肘で見つか ) るだろう(Hook の章を参照). なぜ,ゾウは戦うか? 順位の変動の可能性がある (順位が入れ替わる) 社会構造で生活しているゾウたちの場 合には,上位の順位を狙う闘争と喧嘩が,絶え間なく起こる (Accidents の章を参照) 彼らの闘争のための方法と武器の選択は,きちんと決まったものではない (決まりきった戦闘 方法がない) 最もよく使う武器としては,蹴 (キック) 鼻を使った鞭打ち,頭部を使って壁に向かって敵に突っ込んだり,放飼場を 取り囲むモートに敵を押すことである. ゾウは,噛むか? 写真のように,一部のサーカスでは,サー カスの舞台への入場時や,駅からサーカスの テントに向かう途中に,後ろのゾウが前のゾ ウの尾を鼻で掴む有害な風習(習慣)をさせている.尾は無防備な部分であるから,この有害な風習は,ゾウにとって,ありがたいこ ...
マスト
マスト(日本ではムストとも呼ばれる) という言葉は 何を意味しているか? オスゾウを飼育する問題 (難問) で決定的な(最も重要な)要素は,世にいうマストである.マストは,ペルシャ語を起源とし,北部インドの言葉で「中毒状態」として解釈されている.マストという言葉は,人間やゾウかどうかに関係なく,異常行動,あるいは酔っぱらいの行動の特徴を述べる際に使われる. マストとは,何か? マストは,オスゾウの行動の周期的な変化を定義するもので,それは,数週間から数カ 月に及び続くことがある.この変化は,ホルモンの理由による.マスト期のテストステロ ン (男性ホルモン) の産生量は,普通の時と比べて,40 ~ 60 倍である.私が知る限りでは, この現象 (マスト) は,オスゾウだけに起こる (とりわけ,アジアゾウのオスで). オスゾウは,マスト期にどのように変化するか? マストは,オスゾウの性格 (性状・性質) を,さまざまな面において変える. マスト期の身体的な徴候は,以下の通りである: 側頭部あるいは側頭腺の腫 脹 鼻の基部の腫脹 側頭腺から油のような液体が出て,この液体は,頬を 越えて口角(口の端)まで黒い跡を残す 強い刺激臭のする汗と尿 持続的に尿がしたたり,この尿により後肢の内側が濡 れる ペニスが全く勃起しない 陰茎包皮が,白く緑がかった色になる マスト期の精神的徴候は,以下の通りである: 自閉症的行動 オスゾウがイライラしている際の爆発的な攻撃行動 いかなる物音と,オスゾウから見た場合の思いがけない動き(展開)を我慢できない マスト期ではない場合には,飼育係の命令に,いつも従っているオスゾウが,マスト 期には,飼育係のありふれた命令に,いつものように従わない ...
ゾウとネズミ(ハツカネズミ)
ゾウは、本当にネズミを恐れるか? ゾウがネズミを怖がるという根強い噂(誤解)がある. (訳者注:ゾウがネズミを怖がるという噂は,我が国ではあまり知られていない.この噂は,キリ スト教圏の国々では広く知られている.) このことを流布する冗談全集もある.しかし、こうした冗談は全て、ネズミを見た女性が,悲鳴をあげて近くの椅子に 飛び乗るというたぐいの話と同様に,うさんくさい話(いんちき話)である. なぜ、ゾウはネズミを怖がらないか? 基本的には、ゾウは危ないものを避けるし,そのゾ ウが知らないものは何でも怖がる.しかし、動物園と サーカスのゾウは、自分たちの周囲の環境のほぼ全て を知っているし,ゾウは間違いなくネズミも知ってい る.大量の干し草(乾草)と麦わらがゾウ舎に配達さ かんそう れる時は,いつも梱包の中にたいてい数匹のネズミが 居る.ネズミが自分たちのエサを探す際に,ネズミは,ゾ . 、ウが食べ残した大量のエサを素早く見つける さらに ゾウ舎はネズミのためには申し分のない家である。ゾ ウ舎には,ネズミが必要な全てのもの(食べ物,巣を作るための材料,暖かさと静かな隠 れ場所)が揃っている. ゾウの飼育係は、なぜ,ネズミを駆除するのか? ネズミがゾウの病気を伝播することがあるので (Smallpox の章を参照) , ゾウの飼育係 は、ネズミの数を減らすために一生懸命にネズミの駆除をする.しかし、ネズミが全くいないゾウ舎などありえない. ネズミは、ゾウを恐れるか? 数年前、ゾウの研究をしているチューリッヒ大学の睡眠学の研究者は、数週間にわたり ゾウの寝室を撮影した.その撮影で,大胆不敵な数匹のネズミが,ゾウの食べ残しを盗む ために 恐れることなしに眠っていたゾウをよじ登ったことが明らかにされた それでも ,ゾウたちの睡眠は,ネズミによって邪魔されなかったことが観察された. もう一つ,ゾウが眠っている間,ネズミがゾウの鼻孔の中へ潜り込んでゾウを窒息させ ...
ゾウのヘルペス(疱疹)
どの疾患が,ゾウにとって非常に危険か? ゾウの天然痘 (Elephant pox), 結核 (TB), ゾウヘルペス (EEHV), は,あらゆるゾウ舎の上にダモクレスの剣のように吊されている. 天然痘 過去 2~3 年において,ゾウの天然痘は,主としてドイツで観察された (Smallpox の章を参照) . 幸運にも,ス イスのゾウたちは,今までこの疾患を免れてきた. 結核 結核は,チューリッヒ動物園のメスゾウの Thaia に死を もたらした. Thaia (30 歳) の健康状態は,原因が解らないまま,慢性的に 2 年で非常に悪化したので,安楽死させなければならなかった.病理学者は,剖検によって, かつては丈夫で健康だったゾウを急激に衰弱させた原因 が,結核であったことをすぐに発見した. ヘルペス ヘルペス(疱疹)とは,漿 液を含んだ小 嚢(小さな水疱)がたくさんできる皮膚病に対しての一般用語である.疱疹の原因の大部分は,真菌類(カビ)やウィルス感染症であ る.無害なヘルペスウィルスのうちの つは,我々人間に単 純 疱 疹(口唇ヘルペス)を引 1 たんじゅんほうしん ...
ゾウの飼育管理方法
どうやって,ゾウは飼育されているか? 現在,動物園におけるゾウの飼育方法は,次の 3 つの方法が利用されている. 直接飼育 Free Contact 防護下飼育 Protected Contact ざっくばらんな管理 Offhand Management しかしながら,サーカスでは,ゾウは舞台上で見せられている.サーカスのゾウの動き は,ただ単に,伝統的な直接飼育を使って可能なだけである. 直接飼育 (Free contact)とは何か? 直接飼育 利点 は,ゾウを取り扱うための普通の方法である.ゾウと直接関係を持つ は, 簡素(シンプル)であることと,ゾウたちの充分な治療にある.足の治療,大小の負傷は, 飼育係や獣医師によって直接的に治療が可能である. このハンブルグ動物園の写真は,現在では,過去の遺物であるべきである.たとえ,も し,この写真を全員が,のどかであると見ても,この写真のようにオスゾウを直接相手に することは,今では正しいことではありえない. 危険なマスト になるオス ゾウとは反対に,メスゾウの大部分は,自分 .たちの飼育係とより親睦的で計算可能である これ(直接飼育)は,メスゾウのために多 . ,くの利点をもたらす 動物園とサーカスでは 直接飼育ではないメスゾウの近代的な飼育方 法は,ほとんど想像もつかない(とんでもない .直接飼育は,ゾウの飼育係に,素晴らし) い(良い)訓練を要求する.そういうわけで,ゾウの飼育係は,母ゾウの分娩時に,母ゾウを元気づけたり,落ち着 かせたりできる.同様に,ストレスのかかった母ゾウから,赤ちゃんゾウを守ることもで きる.メスゾウに対する直接飼育では,飼育係は放飼場に入ることができ,ゾウたちの間 ...
ゾウのエサ(飼料)
ゾウは,何を食べているか? ゾウは,ベジタリアンであり草食獣用の飼料で生きている.真に野生で生活しているア フリカゾウとアジアゾウは,草,木の枝と根を食べている. しかし,サーカスと動物園のゾウの主食は,干し草(乾草 ,麦わらと木の枝である.また,サーカスと動物園のゾウは,少しばかりの野菜,果物とパンを給餌され,多量の水を飲む.さらに,彼らは,夏には新鮮な生草を給餌される. 十分に成長した動物園のゾウの 1 日の給餌飼料量は,だいたい以下の通りだろう. 朝食 ビタミンとミネラル(無機塩類)を混ぜて,お湯で混ぜた のフスマ 訳者注:玄米を精米する際には,玄米の種皮を除去して白米とし,この種皮を集めたものを糠, ぬか もしくは米糠と呼ぶ(ぬか漬けにも使われる .また,米糠は,古くから家畜用飼料として繁用されて) いる.同様に,フスマは,小麦から小麦粉を作る際にできる小麦糠のことである.現代では,フスマ は,米糠よりも家畜用飼料として繁用されている.もちろん,動物園で飼育されている野生動物にも 給餌される. 日中 できるだけ多くの木の枝 (右写真) . ゾウが, 自分で木の枝を小さくバラバラにする (一口大 にちぎる) ことは,ゾウにとって楽しい (素晴 らしい) 時間の使い方である.臼歯は,小さな 木の枝によってすり減る.しかも,木の枝は, 体を引っ掻く道具と蝿を追い払う道具として適 している. 夜の主な飼料 乾草 25 kg 麦わら 10 kg ...
ゾウのコミュニケーション(意思疎通)
どうやって,ゾウたちはコミュニケーション(意思疎通)するか? ゾウは,群で生活するので,彼らはお互いと通信するいくつかの方法がある.鼻,耳, 尾,体の動作(ボディーランゲージ)と声は,これらの通信方法の一部である. 鼻の姿勢(位置)は,何を意味するか? 鼻の姿勢(位置)は,防御か威嚇の両方の際 に使われるだろう. しかしながら,ゾウはまた,鼻で触ったり, 鼻で臭いを嗅いだりすることができる.このよ うに,ゾウたちは,他のゾウが今まで,どこに 居たか? そのゾウが何を食べたか? そのゾ ウが,どのように感じているか?を知る. どうやって,ゾウは物の臭いを感じるか? 例えば オスゾウは メスゾウが発情期かどうかを 嗅覚ではっきり知ることができる .ゾウは,爬虫類のように,ヤコブソン器官(鋤鼻器)を有しており,空気中のわずかな濃 度の臭い物質を感知し分析することができる. なぜ,ゾウは耳をパタパタさせるか? 耳をパタパタさせることは,興奮と喜びを示 している可能性がある. かわるがわる,皮膚に 耳を打ちつける音を聞くことがある. この音は, 他のゾウたちに, 聞き耳を立てさせる. そして, 初めてのゾウと接触することで起こる.しかしながら,炎天下では,主に,体を冷や すために耳を使う. 尾は,何をするか? 体の後ろで,尾は,しばしば知覚性の触覚道具として使われる.ゾウは,直接的視界の 外側の周囲の状況を尾で探索する.すなわち,ごく近い周囲の情況と,群れの他の個体か らの距離についてのあらゆる必要な情報を確認する. ゾウの声と聴力は,どれほど重要か(凄いか)? ゾウたちは,その声と聴力を使って,すごく離れた距離でも相互に通信 (やりとり) で きる. ...
アフリカゾウとアジアゾウの違い(相違)
アフリカゾウとアジアゾウとの間には,どんな違いがあるか? より近くで見れば,あなたは,アフリカゾウとアジアゾウとの間の大きな相違点を知る ことができる.実際のところ,遠くから見れば,それぞれのゾウの外観が似ているという だけである.双方とも大きく,鼻,尾を持ち,一部のゾウに牙がある. アフリカゾウとアジアゾウの相違点は何か? 体重 : 4000 7000kg 肩部の体高 : 3 ~ 4 メートル 皮膚 : より多くの皺が寄る 肋骨の数 : 最高 対 最も高い部位 : 肩部の上 耳の大きさ : 大きく,首を覆うまで届く 背中の形状 : 凹形である 腹部の形状 : 後肢の方向に向けて,斜めに下がる. 頭部の形状 : 正面から後ろまで凸凹はなく,こぶと凹みはない. 歯 : 臼歯の皺(ひだ)は,菱形 である. 牙 : オス・メス双方に牙があり,オス ...
アジアゾウ
アジアゾウに亜種 が存在するか? アジアゾウ(Elephas maximus)は,動物学 者によって,下記の 3 亜種に分類されている はずである. セイロンゾウ (Elephas maximus maximus) インドゾウまたは大陸ゾウ (Elephas maximus indicus) -生息域は インドから タイ ベトナム ミャンマー 中国, そして,ブータンにあるヒマラヤ山脈にまでわたる スマトラゾウ (Elephas maximus sumatranus) -インドネシアのスマトラ島産 ボルネオ象 (Elephas maximus borneensis) ボルネオ島から アジアゾウは,絶滅の危機にさらされているか? アジアゾウは 絶滅の危機に非常に瀕している動物種である. 森林の開拓と その後に, 開拓地を農業に使うことによるアジアの人口の激増は,アジアゾウたちの生活 (生存) に 致命的な影響を及ぼしてきている.現在のアジアゾウの個体数は,全部で約 万頭であり,そのうち,約 15000 頭が使役用 と観光用のゾウとして暮らしている.使役用と観光用のアジアゾウたちは,多くの場合,繁殖目的に使われていない ...