マスト(日本ではムストとも呼ばれる) という言葉は 何を意味しているか? オスゾウを飼育する問題 (難問) で決定的な(最も重要な)要素は,世にいうマストである.マストは,ペルシャ語を起源とし,北部インドの言葉で「中毒状態」として解釈されている.マストという言葉は,人間やゾウかどうかに関係なく,異常行動,あるいは酔っぱらいの行動の特徴を述べる際に使われる. マストとは,何か? マストは,オスゾウの行動の周期的な変化を定義するもので,それは,数週間から数カ 月に及び続くことがある.この変化は,ホルモンの理由による.マスト期のテストステロ ン (男性ホルモン) の産生量は,普通の時と比べて,40 ~ 60 倍である.私が知る限りでは, この現象 (マスト) は,オスゾウだけに起こる (とりわけ,アジアゾウのオスで). オスゾウは,マスト期にどのように変化するか? マストは,オスゾウの性格 (性状・性質) を,さまざまな面において変える. マスト期の身体的な徴候は,以下の通りである: 側頭部あるいは側頭腺の腫 脹 鼻の基部の腫脹 側頭腺から油のような液体が出て,この液体は,頬を 越えて口角(口の端)まで黒い跡を残す 強い刺激臭のする汗と尿 持続的に尿がしたたり,この尿により後肢の内側が濡 れる ペニスが全く勃起しない 陰茎包皮が,白く緑がかった色になる マスト期の精神的徴候は,以下の通りである: 自閉症的行動 オスゾウがイライラしている際の爆発的な攻撃行動 いかなる物音と,オスゾウから見た場合の思いがけない動き(展開)を我慢できない マスト期ではない場合には,飼育係の命令に,いつも従っているオスゾウが,マスト 期には,飼育係のありふれた命令に,いつものように従わない ...
動物園のゾウのための行動エンリッチメント-,あ/
なぜ,動物園のゾウたちを,気分転換させる必要があるか? 野生の世界では,ゾウたちは,昼夜の別なく,エサや水を探し,敵を避けようとし,テ リトリーを守り,配偶者を捜し,子ゾウを育てることで活気に満ちあふれている. 動物園では,これらの活動(行動)の多くは, 飼育係が世話をする.ゾウの飼育係は,毎日,時 間通りに給餌して,新鮮な水を与える.放飼場の .中にプレデター 捕食者 が迷い込むことはない そして,ほとんどの場合,管理者とゾウの飼育係 は,ゾウの適切な配偶者(結婚相手)を選びさえ もする. どのようにして,ゾウたちは自分たちで気分転換しているか? オスゾウとの交流のみならず,出産し,子ゾウを育てることは,時間の一部を費やすこ とと,種としての適切なマナーによって,ゾウの群れを忙しくさせるだろう(それらの出 来事は,気分転換になるだろう) . 一方では,野生界のゾウが,時間をかけてすること(前に述べたエサを探したりする種々の労働 は 飼育下のゾウでは必要ない. 動物園やサーカスで暮らすゾウたちにとって, この安楽さは,しばらくして,かなりの退屈さを引き起こすだろう. どうして,行動エンリッチメントは重要か? ゾウの場合 退屈 倦怠 は 近いうちに 社会的な緊張 攻撃と異常行動につながる. もし,ゾウが退屈して,することが何もなかった場合,動物園の観客は,簡単にそれが解る.そういうゾウは,ある一カ所にじっとして, 頭をゆっくりと左右に動かす「はたを織 るゾウ=weaving elephant」として目撃される残念なことに,ゾウの群れを気分転換させるために,非常に献身的で, 創意に富んだ飼育係ですらも,このような常 同行動 (Stereotypic behaviour の章を参照) を完全に防止 (予防) できないかもしれない. ...