ゾウ痘は,どこで発生したか?
ゾウ天然痘は,1960 年に初めてライプツィヒ動物園 (ドイツ) で発生し,翌年以降, 主として中央ヨーロッパの多くの国々に蔓延した.
ゾウ痘は,どのようにして伝染するか?
たいがい ハツカネズミとドブネズミのような齧歯類が このウィルス感染症を伝播 ( 媒介) する.このウィルス感染症の伝播経路は,ネズミの糞尿で汚染された飼料 (エサ) である (Mice and Elephants の章を参照).
ゾウ痘の初期症状は,どのようなものか?
舌に,丸くわずかに膨らんだ潰瘍性の病変ができることが この疾患の初期症状である. 1 週間後に ゾウの全身は,典型的な天然痘の病変 (水痘=水ぶくれ) で覆われる.罹患したゾウの全身状態は,ますます悪化 し ゾウは何も食べたり飲んだりしなくなる.
続いて起きる症状は何か?
しばらくして,罹患しているゾウの足に,病変が発 見されることがある. 重病のこのゾウの蹄冠部 (爪の生え際の皮膚) から, 漿 液 性の液体がにじみ出はじめる. 翌日には,足の角化した皮膚が,足の底面 (足裏) から剥離し始める. これは,全ての足裏がなくなる危険性をはらんでいる.このことは,全ての足裏が脱落してしまったゾウは,足裏組織の直上に存在している保護されていない組織 (すなわち真皮) で立っていな ければならないことを意味する.
ゾウ痘は治療できるか?
ゾウ痘を患っているゾウに必要な治療と看護の総量 は膨大である.
集中治療と,そのゾウの飼育係が絶え間のない世話をしなければ,そのゾウを救命できない. 1990 年に,ドイツのマグデブルクの飼育係と獣医師 が証明したように,米飯 (ごはん) とバナナで作った軟らかい食べ物 (エサ) が与えられ,ゾウの体格 (ゾ ウの栄養状態) が良ければそして,ちょっとした幸運に恵まれたなら,広域抗生物質と輸液 (点滴) を投与してゾウを救命できる可 能性がある.
まずい世話が,なぜ起きたか?
ドイツの小さなサーカスのオーナーがとった行動と, さきほどのドイツのマグデブルクの人々の行動を比較す ると,2000 年の 11 月に,このオーナーは彼のゾウを嘆 かわしい死に方をさせた.2 枚のカラー写真は,そのゾウの足である.このゾウを診察した獣医師たちは,そ の発症から,あまりにも遅くなってから診察の依頼を受 けたので,そのゾウを,もはや救うことができなくて, 安楽死させるほかなかった.